フルマラソンやクリテリウム、ヒルクライム、トライアスロン、その他スポーツ全般の選手の方へ。
日々、オールアウト系のトレーニングで限界まで追い込んでるのに、なかなかタイムが短縮できなくて困っていませんか?
それ、呼吸筋を鍛えていないことが原因かもしれません。
以前は、健常人であれば呼吸器系を強化しても運動パフォーマンス向上に寄与しないと言われていましたが、近年の研究により高強度の運動中は呼吸筋は総酸素摂取量の約10〜15%を消費するだけでなく、総心拍出量の15%を占めることが分かり、呼吸筋トレーニングにより運動パフォーマンスは改善するといわれています。
この記事では、呼吸筋を鍛える意味と鍛えることで得られる効果やメリットを解説します。
パフォーマンスを向上させたい方で、今までに呼吸筋トレーニングをしたことがない方は、ぜひ本記事をチェックして更なる高みを目指してください!
呼吸筋とは?鍛える効果【なぜ運動パフォーマンスが高まるのか?】
呼吸筋とは、呼吸を司る骨格筋のことで、息を吸う時に使う吸息筋と息を吐くときに使う呼息筋の2種類があります。
これまでは、持久性体力(運動パフォーマンス)の向上といえば主に筋肉の有酸素性代謝能力の強化(乳酸耐性)と循環系(1回拍出量の増加)強化を目的としたトレーニングが行われていましたが、近年では呼吸機能の向上も関心が向けられています。
とはいえ、呼吸筋を鍛えるだけで肺活量や最大換気量が増加して運動パフォーマンスが向上するという簡単な話ではありません。
呼吸筋力増加が運動パフォーマンス向上に寄与する理由は主に以下の2つが考えられます。
肺胞酸素分圧の増加
呼吸筋持久力の向上
肺胞酸素分圧の増加
運動パフォーマンスを高める指標として「最大酸素摂取量:Vo2max」という言葉を聞いたことがあると思います。
Vo2maxは体重1kgあたりで1分間に取り込むことができる酸素摂取量の最大値のことで、数値が高いほど高いパフォーマンスが発揮できます。
で、このVo2maxに影響する因子には以下の3つがあるといわれています。
肺胞での拡散能力
心拍出量などの酸素運搬能力
抹消組織などでの酸素利用能力
出典:July 2000 Scandinavian Journal of Medicine and Science in Sports 10(3):123-45|Physiological models to understand exercise fatigue and the adaptations that predict or enhance athletic performance
おそらく、これまでに限界まで追い込んで心拍数をあげるトレーニングの経験があると思いますが、これは心拍出量を増加させることでVo2maxの向上に寄与しています。
また、低酸素マスクや高地などの低酸素環境下でのトレーニングはHbやミトコンドリアの増加が期待できることが知られており、酸素運搬能力と抹消組織での酸素利用能力が向上しVo2maxの向上につながります。(出典:筑波大学陸上競技研究室)
では、肺胞での拡散能力向上によりVo2maxが向上できるのはなぜでしょうか?
これを理解するには、まずは肺・血管のガス交換は濃度勾配により生じる『拡散』という現象で成り立っていることを知る必要があります。(要するに濃度の高いところから低いところへと移動する現象のこと。)
拡散はエネルギーを消費せずに移動できるため、効率の良いガス交換を実現しています。
上図は肺におけるガス交換の簡易的な模式図ですが、息を吸い込むことで肺胞の酸素分圧(PAO2)が増加して、酸素濃度が非常に高い空気で満たされます。
続いて、抹消組織で酸素が消費され酸素濃度が最も低い状態の血液が肺動脈を通じて肺に流れ込みます。
この時、肺胞・肺動脈の酸素分圧(濃度)差により拡散が生じて、酸素濃度が高い肺胞から酸素濃度が低い血液へと酸素が移動します。
呼吸筋トレーニングで向上できるのはこの肺胞酸素分圧です。
要するに、呼吸筋トレーニングにより肺胞内と静脈血酸素濃度の格差が大きくなるため、血液中に取り込める酸素量が増加するという理屈です。
ただし、呼吸筋トレーニング単独でVo2maxを向上できるのは酸素運搬能力・酸素消費能力が肺胞拡散能力を上回っている人です。
人間の呼吸器系は過剰な換気能力を有しているため、通常は呼吸系が有酸素能力の制限因子とは成り得ません。
何が言いたいかというと、呼吸筋トレーニングを行っても必ずしも運動パフォーマンスが向上するとは限らない、ということです。
呼吸筋トレーニングによりVo2maxを向上できるのは極限まで有酸素系トレーニングを追い込んだ人(例えば最大心拍が200bpmを超えているような人)、もしくは高齢の方で肺の老化により換気量が低下している人です。
Vo2maxを向上させたいなら、呼吸筋トレーニングよりもまずは循環器系トレーニングを優先すべきです。
呼吸筋持久力の向上
呼吸筋は持久性の高い骨格筋ですが、疲労によりパフォーマンスが低下することが知られています。
上図は気道抵抗装置で吸気に抵抗を加えて、呼吸筋力の時系列を調べた実験結果ですが、吸引圧(縦軸)は呼吸抵抗時間が進むと降下していることがわかります。
要するに、運動中に呼吸筋疲労が起これば、酸素を取り込める量が減少して肺胞換気量が維持できず運動パフォーマンスの低下につながります。
運動による呼吸抵抗の増加にも耐えられるように、呼吸筋力の筋持久力を高めることは運動パフォーマンス向上に重要なファクターです。
呼吸筋持久力を向上させるトレーニング方法
呼吸筋トレーニングはとにかく高強度でやれば良いというワケではありません。
高負荷のトレーニングによって呼吸筋力は増強しても、全身持久性体力は向上しないという結果がいくつかの論文で報告されています。
- Inbar O, Weiner P, Azgad Y, Rotstein A, Weinstein Y. Specific inspiratory muscle training in well-trained endurance athletes.
- Sonetti DA, Wetter TJ, Pegelow DF, Dempsey JA. Effects of respiratory muscle training versus placebo on endurance exercise performance.
- Williams JS, Wongsathikun J, Boon SM, Acevedo EO. Inspiratory muscle training fails to improve endurance capacity in athletes.
呼吸筋トレーニングは負荷量より持続時間を重視すべきです。
負荷は運動中の換気状態に最も近い程度(低〜中負荷)に設定しておき、できるだけ高頻度・長時間のトレーニングが推奨されます。
おすすめのトレーニング方法は、予測される最大自発的換気の約60%で30分/日・5日/週を4週間継続する方法。
この方法で吸息筋と呼息筋の両方に負荷をかけることで呼吸筋疲労を誘発して呼吸筋持久力を強化できます。
この方法でトレーニングしたサイクリストの10kmタイムトライラルの結果が約7%向上したことが報告されています。
最大自発的換気の約60%と言われても一般の方だと計測する術がないため設定が難しいと思います。
代替案としては、呼吸完了の時間が目安になります。
一定の速度で息を吸い込んだ時に、器具装着時の吸引時間が何も装着していない時の60%の時間になるように器具の負荷を調節してください。
例)
- 何もつけていない状態で息を1秒かけて吸い込む
- ①と同じ吸引圧を意識して呼吸抵抗器具を装着して息を吸い込む
- ②が2秒弱かかる程度の抵抗値に設定する
呼吸抵抗の設定がシビアなので、ウルトラブレスなど洗浄時の分解で負荷がリセットされてしまう器具は毎回の設定が面倒です。
簡単に負荷量を調節したいならエアロフィットがおすすめです。
私も愛用していますが、ダイヤルを回すだけで手軽に負荷量を調節できて、手入れも30秒で終わるほど簡単なので、”ながらトレーニング”で毎日呼吸筋が鍛えれます。
ダイエット効果抜群!呼吸筋・肺活量を鍛えるトレーニング器具エアロフィットレビューで詳しく解説しているので興味がある方はチェックしてみてください。
エアロフィットの使用感は呼吸筋を鍛える5つのメリット
- 肺活量が増加してVo2maxが向上する
- 呼吸筋持久力が強化されて最大出力を長時間持続できる
- ダイエット効果が期待できてパフォーマンス向上につながる
- 運動誘発生喘息が改善する
- 喫煙者の運動パフォーマンスが向上する
肺活量が増加してVo2maxが向上する
呼吸筋を鍛えても肺活量の向上には寄与しないという論文があります。
呼吸筋を鍛えて肺活量が増加するのは、健常者よりも遥かに呼吸筋が弱い病的状態の場合です。呼吸筋力が正常以上で標準的な肺・胸郭なら呼吸筋力の多少の増減は肺活量にあまり影響を与えません。
しかし、エアロフィットを使ってトレーニングすると1週間で肺活量が300cc増加しました。
私の事例以外にも、呼吸筋トレーニングにより肺活量が増加したという報告が見つかったので簡単にご紹介しておきます。
エアロフィットによる12週間の呼吸筋トレーニングにより肺活量が増加した事例
テストの結果、肺活量の平均値は、わずか3.69Lから6.07Lへと、合計2.38L増加した。最低スコアは第1週目の3.13Lで、最高スコアは最終週の6.61Lでした。下のグラフはその経過を示している。
上記事例は12週間で肺活量が2.38L増加していますが、被験者は運動誘発生喘息を患っており、トレーニング開始4週目までは薬物療法を併用しています。
2週目時点で肺活量が1L程度増加した理由は、スタート時の肺活量が喘息により過小評価されていたためと推測します。(このことはPEF Scoreが大幅に上昇していることからも明らかです。)
とはいえ、肺活量は喘息改善後(2週目時点:5L)から12週目までに1L強増加しており、呼吸筋トレーニングにより肺活量が増加したと考えられます。
8週間の高強度の呼吸筋トレーニングにより肺活量が増加した事例
20代の男女40人を最大吸気圧の80%(G1)、60%(G2)、40%(G3)の強度で呼吸筋トレーニングを実施する群とトレーニングなし(G4)の合計4群に分けて、8週間後の呼吸機能の変化を比較。
最大級気圧の80%の強度でトレーニングしたG1のみ肺活量が増加していました。
この研究結果のユニークな点は、全肺気量(TLC)が増加していることです。
普通、身長が変わらないのに肺容積の絶対量(TLC)が増えることは考えにくいため、肺活量は相対的に増加(RV:残機量が減少してVC:肺活量が増加)すると思いますが、この研究結果ではRVは微減でTLCが増加しています。
つまり、呼吸筋トレーニングは肺・胸郭の拡張・縮小の程度を増やして肺活量を相対的に増加させるだけでなく、肺容積を広げて取り込める空気の絶対量を増やす効果もあるということになります。
呼吸筋持久力が強化されて最大出力を長時間持続できる
高頻度・長時間の呼吸筋トレーニングは運動による呼吸筋疲労の閾値をあげる効果が期待できるため、スタートからゴールまで高いパフォーマンスを維持できるようになります。
ダイエット効果が期待できてパフォーマンス向上につながる
持久性体力が要求されるスポーツは、減量によりパフォーマンスが劇的に改善するケースがあります。
食事制限や有酸素運動は長続きしませんが、呼吸筋トレーニングは専用デバイスがあれば手軽に長続きできます。
これまでに呼吸筋を鍛えたことがない人なら、伸びしろが十分あるため短期間で効果を実感できるハズです。
喫煙者の運動パフォーマンスが向上する
喫煙者は肺が硬化して換気効率が落ちている慢性閉塞性肺疾患(COPD)を患っていることが多いです。
そのため、最大換気量が低下して低強度の運動でも簡単に息が上がってしまい運動パフォーマンスが著しく低下します。
呼吸筋トレーニングは慢性閉塞生肺疾(COPD)患理学療法ガイドラインでも推奨されており、一定の効果が得られることは間違いありません。
4.呼吸筋トレーニング(1): 単独効果 推奨グレード B エビデンスレベル 1
中等症から重症の COPD を対象とした呼吸筋トレーニングによって,PImax,吸気筋 耐久力は改善し,シャトルウォーキングテスト(ISWT)や 6 分間歩行試験(6MWT) による運動耐容能は増大することが示されている 。
これらは変化量としては小さい ながらもそれぞれ有意な改善である。 ・
いくつかの RCT では,本法によって呼吸困難の軽減,健康関連QOL,ADLへの改善効果も示されている。
患者教育と比較して呼吸筋トレーニングは呼吸筋力と耐久力を有意に改善させるが, その他の呼吸リハビリテーションの手段と比較した場合の呼吸困難や運動耐容能,健康関連 QOL に及ぼす影響は不明である。
本法のルーチンの適用を推奨する根拠はないが,呼吸筋の筋力低下のために呼吸筋力を強化させたい場合には,本法を適用してもよい。
ガイドラインの他にも、呼吸筋トレーニングにより肺疾患患者の呼吸機能が改善した報告は複数の論文でも紹介されています。
呼吸筋トレーニングにより,最大吸気圧,呼吸筋耐久力,漸増負加圧,運動耐容能,ボルグスケール,呼吸困難(TDI),健康関連QOL(CRQ)の全ての項目で有意な改善が得られている.
Patients in the intervention group achieved larger gains in inspiratory muscle function (both strength and endurance; p<0.001). Clinically relevant and statistically significant improvements in 6MWD were observed in both groups, however, there was no statistically significant difference between groups (p=0.926). Endurance cycling exercise capacity increased significantly more in the intervention group (p=0.048)
介入群の患者(呼吸リハ+呼吸トレーニング)は、吸気筋機能(筋力および持久力の両方;p<0.001)においてより大きな向上を達成した。6MWDは両群とも臨床的に有意な改善が認められたが、群間差はなかった(p=0.926)。持久的サイクリング運動能力は、介入群で有意に増加した(p=0.048)
各種喘息を改善したい人
呼吸筋を鍛えることで小児喘息や運動誘発生喘息が改善できることが知られています。
小児喘息
小児喘息の多くは大きくなれば治ると言われますが、それは成長とともに肺・呼吸機能が成長・発達するからです。
水泳は規則正しく呼吸をする事が基本になりますが、それが呼吸筋を強化し、呼吸機能を発達させます。引用元:すぎもとキッズクリニックHP
運動誘発生喘息
Breathing training undoubtably improved respiratory quality and vastly relived symptoms of EIA, whilst engaging in physical exercise.
呼吸トレーニングは、間違いなく呼吸の質を向上させ、運動中のEIA(運動誘発生喘息)の症状を大幅に緩和します。
喘息全般
IMT has been shown to decrease dyspnea, increase inspiratory muscle strength, and improve exercise capacity in asthmatic individuals.
IMT(呼吸筋トレーニング)は、喘息患者において、呼吸困難の軽減、吸気筋力の増強、運動能力の向上が確認されています。
まとめ:呼吸筋トレーニングはやり方次第で持久性体力の向上が期待できます
持久性体力を向上させるにはVo2maxを高めることが重要で、呼吸筋トレーニングはVo2maxを高める方法の1つです。
とはいえ、呼吸筋だけを強化してもVo2maxは高まりません。
呼吸筋トレーニングによる酸素取り込み量の向上
循環器系トレーニングによる酸素運搬能力の向上
低酸素環境下トレーニングによる酸素利用能力の向上
今まで鍛えてこなかった呼吸筋を鍛えて、更なる高みを目指してください!