皆さんは粉ミルクは無菌ではないことをご存知でしょうか?
2005年から開始された厚生労働省科学班による調査によると、毎年市販粉ミルクの2〜4%で病原菌が検出されています。
残念ながら、現在の製造技術では一部の製品を除き粉ミルクを完全に無菌的に製造することが困難ですし、開封後の粉ミルクが環境中に存在する病原菌に汚染されることも知られています。
赤ちゃんを病原菌から守るためにも哺乳瓶の消毒・粉ミルクの殺菌は必要不可欠です。
哺乳瓶の消毒は必要ない?消毒するたった1つの理由
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過去に病原菌に汚染された粉ミルクを飲んだ赤ちゃんの死亡例が確認されています。
製造過程あるいは調乳過程においてE.sakazakiiまたはSalmonella entericaに汚染された乳児用調製粉乳を原因とした、乳児の重篤な疾患及び死亡例が起きている。
乳児用調整粉乳の安全な調乳、保存及び取り扱いに関するガイドライン(世界保険機構/国連食糧農業機関_2007年)より引用
乳児用調整粉乳の安全な調乳、保存及び取り扱いに関するガイドラインでも乳児への哺乳と調乳に使用された全ての器具を次の使用の前までに徹底的に洗浄・滅菌することが推奨されています。
食器用洗剤で洗っただけだと哺乳瓶に付着した病原菌を完全に除去できていない可能性があるため哺乳瓶の消毒作業が必要です。
粉ミルクは無菌ではない
大前提として、粉ミルクは無菌ではありません。
厚生労働省の調査では汚染率は2〜4%、汚染菌量は333gあたり1個と非常に少ないですが粉ミルクから菌が検出されました。
病原菌が粉ミルクに混入する経路は以下の3つが考えられます。
- 粉ミルクの製造工程での混入
- 殺菌後の製品や乾燥原料の汚染
- 調乳時の汚染
粉ミルクを汚染する可能性がある病原菌
過去に粉ミルクへの混入が報告されている病原菌はE.sakazakiiz(サカザキ菌)およびSalmonella enterica(サルモネラ菌)です。
サルモネラ菌が潜む場所
Salmonella enterica(サルモネラ菌)は様々な動物のお腹の中に生息しています。
鶏・豚・牛にもサルモネラ菌が生息しているため、卵やお肉がサルモネラに汚染されている可能性は否定できません。
卵なら殻の表面だけでなく、黄身の表面や白身部分がサルモネラに汚染されていることがあります。
さすがに、生肉を触った手でそのまま粉ミルクを作る人はいないと思いますが、生肉を処理した「台所」で粉ミルクを作ることが一般的なはずです。
(参考URL:札幌市白石区|卵とサルモネラ菌)
サカザキ菌が潜む場所
E.sakazakii(サカザキ菌)は自然界での生息場所やよくわかっていません。
健康なヒトの腸管からも時折検出されますが、常にお腹の中にいるものではなく多くの場合外部からの侵入によるものです。
自然環境中や動物の腸管内でも確認されています。
例えば、トイレでスマホを触った時にサカザキ菌がスマホに付着してしまい、スマホを触ってから粉ミルクを作る際に混入してしまう。なんてケースも考えられます。
(参考URL:育児用調製粉乳中のEnterobacter sakazakiiに関するQ&A(仮訳)|厚生労働省HP)
日常生活を送る中でサルモネラ菌・サカザキ菌が粉ミルク・哺乳瓶を汚染する可能性は十分に考えられまする。
なお、サルモネラ菌・サカザキ菌は乾燥状態の粉ミルクの中では増殖しませんが、長期間生存ができます。
(参考URL:乳児用調整粉乳の安全な調乳、保存及び取り扱いに関するガイドライン)
粉ミルク自体の消毒は「70℃以上の熱湯」で調乳
病原菌は70℃以上の温度のお湯で死滅するため、70℃以上の熱湯で調乳すれば赤ちゃんへのリスクを大幅に低くできます。
赤ちゃんへの安全面を考えると70℃以下の温度のお湯で調乳することは絶対にやめましょう。
本当に70℃で大丈夫なの?
70℃のお湯でもある程度の効果は見込めますが、完璧に殺菌したいなら90℃で調乳することをおすすめします。
(参考URL:粉末状乳幼児食品におけるエンテロバクター・サカザキ(クロノバクター属菌)の消長)
沸騰直後のお湯は栄養素を破壊するって聞いたけど?
粉ミルクの調乳に熱湯を使用するとビタミンCが大きな影響を受ける可能性があります(低下範囲は5.6~65.6%)。
ただし、粉ミルク中には保存期間中におけるビタミンの喪失を補うため、実際には表示よりも高いレベルでビタミンCが含有されています。
そのため、熱湯により65.6%低下した後でも粉ミルクのコーデックス規格で要求されるビタミンCの最小レベルより高い濃度になります。
(参考URL:育児用調製粉乳中のEnterobacter sakazakiiに関するQ&A(仮訳)|厚生労働省HP)
哺乳瓶の消毒はいつまでしてた?やめるタイミングについて
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基準や指針がないにも関わらず一般的には『生後6ヶ月〜1歳ぐらいまで継続すべき』といわれています。
この理由を深堀りしてみました。
生後6ヶ月である程度の免疫力がつくから
生まれたての赤ちゃんは病原菌などの異物を除去する働きがある『免疫グロブリン(抗体)』の産生量が少ないです。
こちらのグラフは子供の2種類の免疫グロブリン量の月齢(年齢)ごとの推移を表しています。
横軸が月齢(年齢)、縦軸は大人の免疫グロブリン量を100%としたときの相対%です。
このグラフを見ると生まれてすぐはIgGの量が多いし免疫力が強そうなため消毒・殺菌は不要と考えてしまいそうですがその考えは誤りです。
IgG抗体は(母親が)過去に感染したことがあるウイルスに対しては高い免疫力を発揮しますが、初めて感染するウイルスや細菌には免疫効果がありません。
また、免疫には抗体以外の成分(細菌を食べる細胞、免疫系統の指示を出す細胞、補体など)も非常に重要ですが、生まれたての赤ちゃんは抗体以外の成分も産生が未熟です。
生後6ヶ月で哺乳瓶の消毒をやめても良いとされる理由は、この時期になると免疫力が大人の半分程度になるためです。
とはいえ、免疫力が大人の半分になったからといって100%安心できる保証はありません。
抗体産生量以外の哺乳瓶の消毒をやめる2つのタイミング
抗体産生能力は2歳ぐらいまではまだ弱く、大人と同等の抗体量になるのは12歳を過ぎた頃です。
とはいえ、さすがに12歳まで消毒を続けるわけにもいきません。
- 赤ちゃんがおもちゃを口に入れるようになった頃
- 離乳食を開始した頃
赤ちゃんがおもちゃを口に入れるようになったらやめる
赤ちゃんがおもちゃを口に入れるようになればおもちゃからを介して赤ちゃんの体内に雑菌が侵入することになり哺乳瓶の消毒だけでは完全に予防ができません。
赤ちゃんがおもちゃを口に入れだして、かつ健康状態にも問題がないなら哺乳瓶の消毒をやめてもよいと判断ができます。
離乳食が始まったらやめる
おもちゃと同じ理論で、食器やスプーンを介して赤ちゃんの体内に雑菌が侵入するため哺乳瓶の消毒だけでは完全に予防ができません。
離乳食を始めて、かつ健康状態にも問題がないなら哺乳瓶の消毒をやめてもよいと判断できます。
どのタイミングで消毒をやめても100%安心できない
哺乳瓶の消毒をやめることを検討できるタイミングを3つ紹介しました。
- 生後6ヶ月ごろになったらやめる
- 赤ちゃんがおもちゃを口に入れるようになったらやめる
- 離乳食を開始したらやめる
重要なことはどのタイミングも100%安心できるわけではないということです。
サカザキ菌は1歳児未満の子供、特に未熟児、免疫不全児、低出生体重児で敗血症・壊死性腸炎・髄膜炎を発症するリスクが高いことが報告されています。
幸い最近では紫外線を利用した哺乳瓶の消毒器具が販売されており、消毒作業に掛かる手間は昔ほど多くはありません。
哺乳瓶の消毒はなぜ必要?いつまでするのが正解?のまとめ
今回の記事のポイントをまとめます。
- 哺乳瓶を消毒すべきたった1つの理由は病原菌から赤ちゃんを守るため
- 粉ミルクは無菌ではない
- 粉ミルクにはサカザキ菌やサルモネラ菌が混入している可能性がある
- 殺菌のため粉ミルクの調乳には70℃以上のお湯を使う
- 哺乳瓶の消毒をやめることを検討する3つのタイミング
- 生後6ヶ月を経過した頃
- おもちゃを口に入れ出した頃
- 離乳食が始まった頃
- どのタイミングで消毒をやめても100%安心できない
- サカザキ菌は1歳未満で重症化のリスクが高い
- リスクをできるだけ下げたいなら1歳まで消毒を継続すべき
- 紫外線を使用した哺乳瓶の消毒方法が手間が掛からずおすすめ
哺乳瓶の消毒をいつまで続けるか?
この問いに対する完全な答えは存在せず、哺乳瓶の消毒はパパ・ママにとっての永遠の悩みです。
とはいえ、自分の子供を病原菌から守れるのはパパ・ママだけなことも事実。
パパ・ママの労力と子供へのリスクを天秤にかけて、哺乳瓶の消毒をやめるタイミングを検討してみてくださいね。